漫才「ほうれんそう」

漫才「ほうれんそう」

 

A「どーも、よろしくお願いします。」

B「こないだ嫌なことあってさ。」

A「嫌なこと?」

B「車運転してたらさ、あおり運転。」

A「あー。」

B「もうガンガンに煽られてさ。」

A「全然まだあるんだね。問題になったのに。」

B「いやもうほんとにひどくてさ。一人で車運転してたら、後ろからサイレンで『ウーーーーーッ!』」

A「ん?」

B「『前の車止まりなさーーーい』って言われて。」

A「………。」

B「ほんとひどいよね。」

A「なんかやった?」

B「…ん?」

A「なんかやった?スピード出しすぎとか?なんかやったんじゃない?」

B「いや、別に。ただ銀行寄って帰ってただけだよ?」

A「その銀行でなんかやった?え、お前何か悪いことして帰ってない?すごい不安なんだけど。」

B「でもうほんと煽りもひどくてさ、ただでさえマスクつけてて視界悪いから危ないのに、イライラするのよ。」

A「やってるじゃんお前!マスク被ってるじゃん。何してるの?」

B「?別にマスクなんてみんなしてるでしょ。」

A「形違うだろ。口元ノーガードだろお前のやつ。普通のマスクで視界悪くなんないのよ。」

B「いやいや、目が曇るじゃんか。」

A「裸眼だろお前。眼鏡かけてるやつの意見だからなそれ。お前の眼球ガラスなんか。」

B「で、もうあまりにしつこいから、スピード出して完全に振り切ったんだけど。」

A「余罪重ねてない?なんなのお前?」

B「いやーあの時はほんとー、警察呼んでやろうと思ったよね。」

A「もう来てんだよ。聞いたことねえよ自分で増援呼ぶやつ。」

B「改めまして〇〇〇と言います。よろしくお願いします。」

A「よろしくお願いします。」

B「彼が〇〇で、僕が〇〇と言いまして。」

A「あんまり名乗らないほうがいいんじゃない?隠しておいたほうがいいんじゃない?」

B「顔と名前だけでも覚えて帰ってください。」

A「覚えてとくとね、張り紙の写真見てピンとくる場面があるかと思います。よろしくお願いします。」

B「で、さっそく本題なんだけど、練習させてもらっていい?」

A「なんの?ピスタチオ以来だよ。練習?」

B「練習。ほら、漫才っていえば大体、報告・練習・相談でしょ。」

A「間違ってはないけど。そんな漫才のほうれんそうなんてないからな。ビジネスみたいな。」

B「さっきは報告だったから、次は練習。」

A「まあ練習するのはいいけど…。結局何かを言ってもらわないと、こっちもやりようがないからね。」

B「えーとねー、裁判の練習したいんだよね。」

A「自首しろってなあ!!今すぐ!今すぐ自首しろ!!警察いきます、すいません、ありがとうございました。」

B「違う違う、裁判って友達のだよ?」

A「友達?」

B「そう、最近友達が捕まっちゃって今度被告で裁判やるらしくて、で、俺がその弁護人やるから、その練習しておきたいんだよね。」

A「……………。なんかもういろいろ言うことあるなあ。え、何、友達が?捕まった?」

B「うん。」

A「類は友を呼んでんのかねえ…。それで、やるとしても証人じゃないの?弁護人ではないだろ。」

B「いや、弁護人だよ。」

A「弁護人ってそんな友達とか身内がやるもんじゃないのよ。ちゃんと資格持ってる人がやるやつだから。」

B「いやなんかそいつによると、全国のいろんな弁護士に依頼したみたいなんだけど、全員が断ったんだって。」

A「じゃあもう敗訴確定だよ。弁護のしようがないんだよ。何やったんだよそいつ。」

B「そいつ金はあるから1億2億出すとは言ってんだけど、全員ダメみたいで。」

A「まともな金じゃないだろそれ。もらうわけないだろ弁護士が。」

B「でも1億だよ?」

A「なめんなよ弁護士の正義感。正義だけで青春の時間勉強して飯食ってる人たちだからな。で、誰もやらないから、お前がやんのか?」

B「うん。」

A「金に釣られて。だっせえ。最低だなお前。」

B「バカにすんなよお前!!」

A「何キレてんだよ急に!大きな声出して!実際のところそうじゃねえか!」

B「ダチから金なんて取るわけねえだろ!!」

A「こいつそういうやつでしたわ!忘れてましたわみなさん!!情に厚いやつなんですわこいつ!」

B「それに俺も今別に金に困ってないし。」

A「そして犯罪者でしたわ!!なあお前なんでさっきからグレーに黒をドボドボ足してくの?」

B「まあとにかく、そういうことだから、裁判の練習をさせてほしい。」

A「いや、練習って言われてもさ、そもそも俺そんな裁判の流れとか詳しくないし、犯罪の内容も知らないないのに、やりようがないのよ。」

B「大丈夫大丈夫、そんなに難しくは考えなくていい。なんか聞いてる話では、死刑さえ免れてくればそれでいいって言ってたから。」

A「何やらかしたんだよそいつ!もう関わりたくねえよこの話!」

B「ダメ?」

A「こんなとこでそんなヤバいやつのために練習してた事実を残したくない!絶対やらん!」

B「頼むよ。人助けだと思って。」

A「助けるべき命かそれ?せめて何やったか、何やったかだけ最低限教えてくれ。」

B「それはお前…。こんな人のいるところで言えるわけないだろ。」

A「じゃあ持ち掛けてくんなよ練習!なんで言い出したんだよ!」

B「じゃあ相談させて相談!ほら漫才ってほうれんそうでしょ。よし!ほうれんそうコンプリート!」

A「別にほうれんそうってノルマ制じゃないからな。適宜やれば評価されるやつだから。何、相談?」

B「相談。耳打ちでお前にだけ話すから、それをお客さんに伝えていいか相談させて。」

A「……とりあえず聞くけど…。ダメだったらこの漫才終わるからな。」

B「わかった、それで大丈夫。」

A「すみませんお客さん、申し訳ないんですけどちょっと待っててください。」

B「………。」

二人「(軽く後ろに下がる)」

B「(耳元でゴニョニョ話す)」

A「(聞く)」

B「(話終わる)」

A「(間をおいて、Bの頭を思いっきりはたく)」

二人「(そのままお辞儀して下がる)」